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山本昌 講演会講師インタビュー

「球界のレジェンド」の異名を持ち数々の大記録を達成してきた名投手で、現役32年を中日ドラゴンズ一筋で活躍してきたフランチャイズプレイヤー。
3度の最多勝に輝き、1994年には投手最高の栄誉である沢村賞を受賞。
2006年には史上最年長41歳でのノーヒットノーランも達成し、以降も数々の歴代最年長記録を樹立してきた。
50歳での現役、プロ生活32年、実働29年はいずれも歴代最長で、プロ通算219勝のうち半分以上の140勝を30歳以降に記録。

野球解説やメディアでの取材活動、講演会などに精力的に取り組む山本昌氏に、高いパフォーマンスを出し続ける秘訣を伺いました。

(text:伊藤秋廣、photo:小野綾子)

講演への取り組み

 

 

――どのような主催者様からお問い合わせがありますか?また、聴講対象はどのような方々が多いでしょうか。

 

 

 

山本昌

山本昌 企業はもちろん、一般の方々に向けたものまで幅広く、実に様々な場面で講演活動を続けてきました。

まず、私が野球の世界で長く頑張ってこれた秘訣やモチベーションを維持する方法など、自分の経験の中から少しでも皆様の心に残り、お役に立てる話ができればと考えています。

 

最近は、特に若い方々を中心に転職は当たり前という認識になりました。
私たちの時代には、一つの組織の中で頑張り続けることの美徳みたいな感覚があったかと思います。

 

 

ところが今ではチームや職場を変えることに世の中の抵抗が薄れています。
野球でいえば、FAの制度が日本に入ってきたり、一般の社会人であれば転職情報が充実するようになりました。

 

嫌になったら我慢せずに辞めて、新しい可能性を見出すという考え方も一理あります。
しかし、まずは採用してくれたチームや会社に対して恩返しをする意味でも、与えられた仕事を一生懸命にやることが大切だと思います。

 

もちろん、全員が自分の好きな職業につけたり、好きな部門に配属されるわけではありませんが、与えられた環境の中で頑張ることができなければ、結局、どこにいっても同じことの繰り返しになる可能性があります。

 

そういう意味では、「組織の中で頑張るコツ」や「若いメンバーとの付き合い方」を話すこともあります。

最初から思い描いた通りの働き方ができる人はほんの一握り

――50歳での現役、プロ生活32年という大記録を打ち立てた山本さんですが、高いパフォーマンスを出し続けるために心がけたことを教えて下さい。

 

 

 

山本昌山本昌 あまり無理をしないことだと思います。続かない努力をしても仕方がありません。

 

私の場合、野球が好きだったので、そこに携わっているだけで幸福を感じていました。
やはり自分が選んでそのチームや会社に入ったのですから、まずはそこで自分の力は出し切るべきでしょう。

 

会社に頼りにされる人間になれば、恐らく努力の仕方や頑張り方を覚えていくとは思います。
最初から思い描いた通りの働き方ができる人はほんの一握りです。

 

 

「モチベーション」という言葉もありますが、それほど難しく考えなくても良いと思います。
頑張り続けていれば、誰かが必ず認めてくれる、それが良い組織の特徴だと思います。
頑張りもしないで、「成果があがらない」「信用してもらえない」とぼやくのではなく、まずは“やるのだ!”という意気込みと姿勢が重要です。

 

“一生懸命にやる”というのは最低限の話で、あとは自分が何を頑張りたいかを明確にしているか、していないかの問題です。
“人から評価をされたい”というのもわかりますが、認めてもらうことが目的ではなく、あくまで会社のためや自分のため、家族のために頑張っていれば、絶対にその思いは伝わるはずです。

 

 

 

山本昌結局は積み重ねなんですよ。
人間、日々頑張っていれば習熟していくものですし、どんどん上達していきます。

 

最近の若い子は知識もあるし、非常に合理的な考え方を持っている人が多いような気がします。
でも、合理的な理論だけで固めているとどうしても足元が緩くなってしまいます。
中には、会社のやり方を批判的な目で見て、“これはやっても仕方がないよね”という若い人もいるかと思いますが、無駄だなと思ってもまずやってみるべきだと思います。

 

その会社の成長を支えてきた理念や理論が存在するはずなので、それを否定せずにいてほしいのです。
一度や二度、やってみたうえで、本当にそれが無駄だと思うのだったら、ちゃんと意見を述べたうえで変えていけばいいのです。

 

私たちが若い頃は、今みたいに合理的な練習ではなく、とにかく走っておけば大丈夫というような内容のものでした。
今では科学的、医学的観点からずいぶんトレーニング内容も変わってきましたし、効果も出ていると思います。

 

ただそのベースとしてひたすら走ってきた体力があったから、私も長く選手生活を続けてこれたのだと思っています。

その一方で、若い人の言葉にも耳を傾けてきました。
ルーキーにどういう練習をしてきたのかを聞いて、良い部分があったら積極的に取り入れてきました。

 

先ほども申し上げたように、最近の若い人は非常に優秀な人が多いですから、上の人が頭ごなしに「お前らのやっていることはだめだ」と否定するのではなく、その秀でた部分は認めたうえで自分たちも変わる姿勢をみせるべきです。

逆に若い人は、会社の歴史ややり方を学んで、そういった環境の中で切磋琢磨していくのが理想です。

 

上の人も若い人も、どうせひとつのチームとして一緒にやっていかなければならないのですから、お互いの話を聞いて全体を良くしていけば良いのです。
「あれは古い」「あれは違う」とお互いに言い切るのではなく、「あれも一理ある」と考えたほうが良いでしょうね。

大切なのは「体・技・心」

 

――プロの世界で結果を出し続けるには想像を絶するストレスがかかるかと思います。ストレスやプレッシャーを克服するコツなどあれば教えて下さい。

 

 

山本昌山本昌 プレッシャーがかかる仕事というのは、本人が頼りにされているから任されるのだと、前向きにとらえるべきでしょう。
大きな仕事や稼げる仕事ほどプレッシャーが大きくなるのは当たりまえの話。

 

何度経験したってその緊張感を楽しむことはできませんけれども、自分の中で対処して、踏ん切りをつけて頑張る方法はあります。
具体的な内容については、講演の中でお話しています。

 

最近は、何かと「気持ちの問題」や「メンタルの弱さ」という表現が使われますが、気持ちなんて自分の考え方、受け止めかた一つで何とかなるものです。
大切なのは「体・技・心」だと思っています。

 

体調を整え、しっかりとした技術を身に着けていけば、メンタルは強くなります。
ですから、最初に述べたように、自分が選んだ職場で、与えられた仕事をきちんとやっていって技術を身に着ける。

 

 

とにかく体調を整えて毎日頑張っていれば、絶対に自分の力が発揮できる場所に起用されるようになります。
一生懸命に頑張っている人を笑うような職場だとしたら、辞めれば良い。
きちんとした組織であれば、その頑張りを誰かが見てくれて、ちゃんと引っ張り上げてくれます。

 

そして、いくつになっても努力は続けていったほうが良いですね。
野球の世界では自らを向上させることに終わりがありません。100%がないんですよ。
全打席ホームランで全投球で三振が取れるという100%はありえない。
でもバットに当たれば何かが起こるかもしれません。
だからそのためにいつまでも自らの技術を追及し、向上していくしかありません。

 

 

――ベテランと呼ばれるようになる中で、チーム内でのコミュニケーションについて意識されていたポイントを教えて下さい。特にルーキーとは年齢差があり世代間ギャップもあるかと思いますが、それをカバーするテクニックや気をつけたことはありますか?

 

 

 

 

山本昌山本昌 若い人たちには、なるべくこちらから声を掛けるようにしていました。
いつも考えていたのは、若い子から何を聞かれてもいいように準備をしておくということ。
例えばルーキーが投げるフォームをしっかり見ておいて、「もっとこうしたらいいのに」という観点を頭の中に入れていくのです。
コーチという職業があるのでこちらから積極的に教えたりはしませんが、聞かれたらちゃんと丁寧に伝えます。
それは先輩として当たり前のことだと思っています。

 

もちろん私の言うことがすべて正しいとは思っていませんが、「とりあえずこのアドバイスは引き出しにしまっておけ」と言います。
今やれとは言いません。
困ったときに、“山本さん、こんなことを言っていたな”と、引っ張り出して試すのが一番効くのですよ。

 

 

 

 

――ありがとうございます。ところで山本さんは野球以外にラジコンや競馬など多彩な分野でご活躍されていますね。山本さんにとってラジコンや競馬はどのような意味がありますか?
また、新たにチャレンジしていきたい領域があれば教えてください。

 

 

山本昌 現役時代はもちろん、今でも野球関連の仕事は最優先に考えていますが、趣味もやるからにはコアにやりたいほうなので、けっこう突き詰めますね。


こういった楽しみを持つことは会社に勤める方にとっても大切なことだと思います。
趣味が充実すれば仕事にも張り合いが生まれてます。
生きがいは重要ですよ。


年齢や忙しさのせいにせず、やりたいことを見つけてチャレンジしたほうが良いと思います。
時間は自分で作ればいいし、身体はやれば動くし応えてくれます。


60歳過ぎてもフルマラソンに挑戦する人もいるくらいですから、ぜひ挑戦をしてほしいと思います。
2020年には東京オリンピックもあることですし、私も野球以外のスポーツを鑑賞するだけでなく、時間を作って挑戦をしてみたいとも思います。

 

 

 

山本昌

 

 

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