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黒川伊保子 講演会講師インタビュー

1959年、長野県生まれ、栃木県育ち。1983年、奈良女子大学理学部物理学科卒。
人工知能研究者。脳科学の見地から「脳の気分」を読み解く感性アナリスト。感性マーケティングの実践者であり、男女脳論の専門家。 語感分析の専門家でもある。
人工知能エンジニアを経て、2003年、ことばの潜在脳効果の数値化に成功。大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。昨今では、「男女脳差理解によるコミュニケーション力アップ」を目的とした講座も人気黒川伊保子さん。
脳の研究からくりだされる男女脳の可笑しくも哀しいすれ違いを描いた随筆や恋愛論、脳機能から見た子育て指南本、語感の秘密を紐解く著作も人気を博し、TVやラジオ、雑誌にもたびたび登場。アカデミックからビジネス、エンタメまで、広く活躍している。

(text:大橋博之、photo:小野綾子)

「問題解決型」と「共感型」

──黒川さんといえば『妻のトリセツ』(講談社+α新書)で有名ですね。

黒川伊保子インタビュー

黒川伊保子 おかげさまで『妻のトリセツ』は50万部。『夫のトリセツ』と合わせると65万部になりました。

 

──男と女の違いを言語化していることで、「ああ、そうなんだ」という気づきがたくさんありました。読者の方からの反応はいかがですか?

 

黒川伊保子 男性の方から感想メールを頂くことが多いですね。私が感動したメールは、「子どもが生まれてから妻が天使から悪魔に変わり、家は天国から地獄になりました。僕はただ、子どもの顔を見ることだけを心のよりどころにして家に帰っていました。ところが『妻のトリセツ』に書いてある通りにしたら、妻がみるみる変わり、先日など“この子が大きくなったらまた2人で旅行に行きたいわ”と言ってくれました。

 

“下の子が18歳になったら別れてちょうだい”とまで言われていたのに…泣けました。『妻のトリセツ』の通りにしただけで、妻は天使に、家が天国に戻りました」と書いてありました。夫婦問題を心配して『妻のトリセツ』を書いたのですが、「ここまでだったのか!」と胸を突かれました。

 

──内容が普遍だからベストセラーになるんですね。

 

黒川伊保子 これはノウハウ集というか、「こう言われたら、こう言えばいい」という気持ちで書かせて頂きました。

 

──どういう意図から『妻のトリセツ』を書かれたのですか?

 

黒川伊保子 私は人工知能(AI)のエンジニアとして、AIと人の対話を研究しています。

人間には、脳がとっさに使う回路が2種類あります。自分の身を守るための、無意識の選択ですね。

「空間認知の領域を使って、今現在の危機に対応する」か、「右脳と左脳の連携信号を使って、感情で記憶を引き出しながら、過去のプロセスから何らかの知見を見つけ出して深い気づきを得る」かです。

 

前者を選ぶと、事実を把握し、問題の解決を急ごうとします。私どもは、この脳の使い方を、「ゴール指向問題解決型」と呼んでいます。

後者を選ぶとエモーショナルなきっかけで過去を思い出し、脳は“気づきの旅”に出ます。「あの時、あなたがこういったから、こうなって、ああなって、こうなって」と、長い話が始まるわけ。こちらは「プロセス指向共感型」と呼んでいます。

 

人類は、どちらの回路も使えるけれど、特に強いストレスがあるとき(危険・不安・不満とかを感じたとき)、女性は共感型を選び、男性は問題解決型を選ぶ傾向にあります。

だから、ことが起こったとき、男性は黙して解決を図り、女性はおしゃべりで気づきを起こそうとします。

 

──すごく分かります。

 

黒川伊保子インタビュー

黒川伊保子 過去の記憶を引き出してそれを思い返すと、脳は比較的リアルに再体験します。そのことで最初の体験では分からなかったことに気付けるようになります。

女性はこちらの回路を使った方が子育てに有効なんです。子どもを怪我や病気にさせないのが子育てのミッションだからです。二度と同じ失敗をするわけにはいかないから。

 

さらに、他人の体験談に共感することで、自分が経験しなくとも、気づきが起こります。子どもを危険にさらす前に、危険回避する術を手に入れるわけですね。

もちろん、男性もこの回路を使います。怒りで過去を思い出し、脳を活性化して何かに気づくということがあります。

 

──男女の違いではないんですね。

黒川伊保子 男性、女性に関係なく、人類はこの2種類を使えます。

ただし、先ほども言ったように、とっさに使う際の優先順位には、性差が見られます。

太古の昔から、共感力の高く、井戸端会議が得意な女性ほど、子どもを無事に育て上げてこれたのだと思います。なので、自然に、“とっさに共感型”の女性の数が増えたのでしょうね。

 

逆に狩りに出ていた男性のほうは、目の前の危機に対応する方が有利なので“とっさに問題解決型”が、多めに生き残ってきたということです。

傾向にすぎないので、女性でも「問題解決型」優先の人もいれば、男性が「共感型」優先の人もいます。

また、状況によっても、切り替わります。管理職なら、男女関係なく、現場では「問題解決型」をとっさに使います。「問題解決型」優先の女性でも、子育て期には「共感型」優先になったりもします。

 

──複雑ですね。

 

黒川伊保子 生殖のための脳の戦略なので、特に夫婦は、真逆に振り切れます。夫が「問題解決型」、妻が「共感型」にきっぱり分かれる。

 

生殖期間が終わると、案外逆転することも。女性は、子育てが終わると「問題解決型」シフトして、単刀直入になる。「何が言いたいの。さっさとして」と、夫を急がしたりする。同じころ、男性はテストステロン(男性ホルモンの一種)の分泌量が減ってくるので情緒的なります。中高年の男性が「最近、涙もろくなって」ってよく言うじゃないですか。あれはエモーショナルオリエンテッドな回路が発動しやすくなっているから。50代後半くらいから、男性は「共感型」を使います。つまり、夫婦は更年期反転するわけ。

夫が妻に「僕の話を聞いてくれ」と言い始め、妻が「あなたの話は長いから聞いちゃいられないわ」となります。

 

──男女の違いではなく、「問題解決型」と「共感型」が別物だということですね。

 

黒川伊保子 0~3歳児ぐらいまでの子育て中の男女では、特に妻は「共感型」に、夫は「問題解決型」に振り切るので、妻の側は、心が通じないと感じます。このときのしこりが原因で、離婚に至るケースが多くあります。単に言葉の問題なのに、互いに心の問題にすり替える。夫は「こいつは愚かだ」と思い、妻は「この人はひどい」となる。対話のチャネルを間違えている。ただそれだけのことなのに、「この人とは一緒に生きて行けない」となるのは、あまりにも惜しいと思いました。

『妻のトリセツ』は、妻の危険を知らない男性たちのために書いたものです。

 

──とてもよく分かります。ところで黒川さんは感性リサーチという会社の代表取締役なわけですが、『妻のトリセツ』は研究成果なのですか?

 

黒川伊保子 研究成果からのスピンアウトです。

私の研究は、とっさに人間がしていることの普遍とその類型を探し出すことです。

例えば会話は世界に2種類しかありません。問題解決型か共感型か。すなわち「事実から始まる会話(fact-oriented)」か「感情から始まる会話(emotion-oriented)」かです。

英語は言語構造が「問題解決型」です。だらだらとプロセスを述べる言語構造になっていません。アメリカ人は「あなたはこうするべきだった」「私には受け入れがたい」と結論から言う。べき論でぶつかるので、相容れなかったら、離婚に一直線な気がします。「愛してる」を降るように言わないとね。

 

一方で、イタリア語と韓国語は、「共感型」の言語構造。他人の話を聴くとき、共感ワードを多用します。イタリア男性は「いいね、いいね、すごくわかるよ」と言いながら、実際は一歩も引かない。韓国も一緒です。

その点、日本語はすごく不思議なことに、両方バランスよく使っています。私は日本人だからこの2つの違いに気づけたと思います。

 

──「問題解決型」には「問題解決型」で話し、「共感型」には「共感型」で話す必要があるんですね。

黒川伊保子インタビュー黒川伊保子 そうですが、人間の場合は、「人の話は共感型で聴き、自分の話は問題解決型で話す」が極意。問題解決型の方でも、共感されて嫌な思いはしないし、共感型の方でも、人の話はわかりやすいほうがいいようです。

 

ただし、人工知能は違います。変に共感されると、「機械のお前に何がわかる!」となってしまう。かといって、共感型をまったく使わないと、問題が生じます。

たとえば、共感型を搭載せずに、AIを女性の声でしゃべらせると、女性は違和感を覚えてしまう。女性の声やビジュアルを持っているAIに、無意識のうちに共感を期待するからです。

私の友人は、iPhoneのSiriに、優しいことばを期待して「なんだか、頭が痛くなってきた」と言ったそうです。そうしたら、すばやくお近くのドラッグストアの住所を教えてくれたとか。彼女が期待したのは、「頭が痛いの? 午後から長い会議があるのにかわいそう。熱いお茶でも飲んでみたら、どうかしら」のような感じ。頭痛が倍増したと怒ってました。

 

日常会話ならムッとするくらいで済みますが、危険な現場でヒトを支援するAIが、ユーザの脳の動きと違う反応をしてきたら、命にさえ関わります。

2種類あるということを、きちんとAIに教えてあげないと、これからAIと一緒に生きる時代、AIに命を預けるときに危ないと思っています。

 

──黒川さんは、AIに感情を植え込んでいるわけですね。

 

黒川伊保子 植えこんでいる、というのは違います。AIは感情を持ちえない。AIは、あくまでも記号として、「わかります」「たいへんですね」を出力します。感情を植え込むのではなく、対処法を教えるのです。

けれど、その記号を受け止める人間の方には、豊かな想像力がある。その記号に、ほっとすることができる。ほんと、ことば一つなのです。

 

その研究の途中で、「AIも分かってないが、夫も分かっとらん」と気づいたんです(笑)。

 

──そうか~(笑)。

 

黒川伊保子 「AIも教えないと分からんが、夫も言わないと分からん」と気づいて、「私が普通に話すときは共感型だから聞くだけでいい。問題解決型の時は手を挙げるから教えて」と伝えることにしました。

 

──男性からするとそうしてもらった方がラクです。

 

黒川伊保子 「AIに教えるように夫にも教えたらいいんだ」と分ってからは、夫婦仲も良くなりました。

 

──教育が大切ですね。

 

黒川伊保子 息子が生まれたとき、既にこの研究をしていたので、最初から「共感型対話」を心がけました。

AIは、学習させたことしか、出力できません。優しいことばをかけられたことも、目撃したこともないAIは、優しいことばを返すことはない。AIは、人間の脳の模倣ですから、人間も同じです。

 

日本のお母さんたちは、子どもたちに問題解決型で接することが多いようです。「○○しなさい」「グズグズ言ってたら、置いてくわよ」「宿題やったの?」「どうして、できないの!」。男性の脳は、思春期以降、一気に問題解決型シフトするので、12歳までに共感型対話を仕込む必要があります。つまり、母親との対話が頼り。なのに母親が、息子を「問題解決型」で育てたら、息子は「共感型」対話を知らないままになります。つまり、日本の夫たちが「問題解決型」でしか会話ができないのは、教育熱心だった母親のせい。

これは『息子のトリセツ』で書いたことです。

 

──負のスパイラルがある、ということですね。

黒川伊保子 日本の子育てが、成果を母親に突き付けてくるからでしょうね。その社会を作ったのは、過去の母親たちの問題解決型の話法ということになる。母親自体にも、それは跳ね返ってきます。私は女性向けの講演会で「あなたが息子に“くずぐずしてたら、置いて行くよ”、なんてことを言っていたら自分が90歳になったとき、息子から“ぐずぐずしてたら施設に入れるぞ”、と言われますよ」とお話しします。自分が言った言葉は自分に返ってくるんです。だったら、息子は自分が言われたい言葉で育ててればいいじゃないですか。

 

だから夫は可哀想だなと思って。自立心のある、とても素敵な姑でしたから、一人息子をしっかり育てようと、息子を問題解決型で育てた。そういう時代でしたし。だから、口の利き方も知らないんだなと思って。今は第二の母になった気持ちでいます。でも、腹が立った時は強くあたっちゃいますけどね(笑)。

 

 

AIをどう育て、AIを育てる人材をどう育てるか?

──黒川さんは感性リサーチでどのようなお仕事をされているのですか?

 

黒川伊保子インタビュー黒川伊保子 私どもは3つのコンテンツを世の中に提供しています。

一つ目は「感性コミュニケーション」。『妻のトリセツ』に書いたような「問題解決型」と「共感型」の溝を埋める方法。これは男女間だけでなく、上司と部下など、人間のコミュニケーションに役立ちます。部下の能力を最大限に生かして組織全体のパフォーマンスを上げることができます。

二つ目が「感性トレンド」。流行には脳が創り出す周期があります。それを読むことで近未来の商品をどちらの方向にすべきかをコンサルティングさせて頂いています。

三つ目が「感性ネーミング」です。特にメインにしているのは、このネーミングです。

会話のなかで使う言葉の「語感」が対話を牛耳っています。例えば、1991年に全国の原子力発電所で稼働した対話システムを作ったのですが、最初、Yesの受け応えは、すべて「はい」と言わせていました。

「こういうデータはありますか?」「はい」「そのデータに図面はありますか?」「はい」「急ぎ送れますか?」「はい」。すると「はいが3つ続くと冷たい」とクレームがきました。

次に「はい」「ええ」「そう」をランダムにしました。すると「この質問では“はい”じゃないと不安だ」ときました。

確かにそうです。「急ぎ送れますか?」に「ええ」では不安です。

 

研究して分かったのは、「発音の体感」でした。

「はい」は、肺の中の粋が一気に押し出される。速いんです。「ええ」は、舌を平たくして後ろに引くので、全体を見渡した感じがする。遅いんです。急ぎの仕事は「はい」で受けてほしいけど、「俺って、いい男だろう?」には、「ええ」の方がいい。よく見て、よく考えて、本当にそうだと思う、という感じが伝わるから。

弊社では、この世のあらゆる音韻に、発音体感に起因したワードイメージ(語感)を与えたデータベースを持っています。ここにワードを入力すると、その語感が数値化できる。舌も息もないAIに語感を理解させるために開発しましたが、商品名の分析に役立つんです。そのため、ネーミングの開発の仕事が多くなっています。

ただ、最近ではAIに関する講演が増えています。「AIと人類はどう付き合っていくべきか」というテーマでのご依頼が多いです。

 

──「AIと人類はどう付き合っていくべきか」というテーマはそろそろ結論が出るのでは?

 

黒川伊保子 AIを、単に「タスク事務処理をする道具」と考えているのなら、たしかに結論が出ているとも言えますが、そんなこと、まだまだ入口です。AIとの付き合い方をどうすれば良いか? という問いに対して、経営者に決定打はまだないと思います。例えば、顧客対応をAIにさせるのか、人間にさせるかはまだまだ悩ましいところです。

 

──顧客対応をAIにさせているところは増えているのではないでしょうか?

 

黒川伊保子 AIに対応させることでメリットもあれば、リスクもあります。

AIが対応することで、基本「問題解決型」になります。顧客は機械相手なので、比較的冷静になり、良い解決ができることもありますが、心は通じません。

現実には、人間のオペレータの「それは、心細い思いをさせましたね」の一言が、顧客満足度を上げ、企業のブランド価値を押し上げたりしています。

すると、心が通じるAIをどうデザインするか? という話になります。

つまり、AIを教育する必要があります。

 

──なるほど、技術サポート対応は「問題解決型」のAIで、クレーム対応はひたすら謝る「共感型」のAIが良いと。「問題解決型」と「共感型」を使い分ける必要がありますね。

 

黒川伊保子 ひたすら謝ったら、ダメですよ! 相手の気持ちにだけ共感するのです。「心細い思いをさせましたね」は「申し訳ありません」とは違います。非を認めたわけではありませんが、顧客の気持ちには、心からのいたわりをあげているのです。

 

たとえば、「あなたの店って、○○がダメ」と言われても、「お気に障りましたか? 申し訳ありません」なら、非を認めたわけじゃないので、改善をするかどうかの権利は店側にあります。けれど、顧客の留飲も下がります。

共感は、非を認めることとは違います。よい企業は、接客の最前線に立つプロに、この教育を徹底しています。

ほらね、企業に内在しているこういう知を、人工知能に教育する必要があるわけです。ひたすら謝ったら、保証しなくちゃならなくなるもの。

 

──企業文化の明文化ですね。

 

黒川伊保子インタビュー黒川伊保子 そうです。それはどの企業でも同じことです。企業には各々企業文化があります。その文化をデザインすることが必要です。今のところ、誰もそんなことを考えていません。でも、急がないといけないんです。AIの人格をどう作るか? その人格をどう保つか? は、実はこれから始まります。

だから、今のAIなんてまだまだ入口なんです。発展途中のAIで満足している場合ではありません。あらゆることへの準備をしないといけないんです。

やがて、企業文化を分析して、AIの世界観を創生するAIクリエイターや、運用中のAIの新たなアウトプットに対して、評価を与えるAIチューターが必要になります。それらの人材をどう育てるのか? AIクリエイターやAIチューターに悪意があると、当然、悪意のあるAIに育ちます。エンジニアのモラルも、今以上に問われる時代になるでしょうね。

 

──なるほど。

 

黒川伊保子 AIクリエイターやAIチューターを育てるために大切なのは「失敗」です。人間の脳は、失敗をすることで劇的に脳を書き換えることができる。勘やセンスは、失敗が育てると言っても過言ではありません。なのに、日本の企業は失敗に不寛容です。さらに、AIが導入されると失敗の数は圧倒的に減ります。

経営者は、人材教育のために、あえてAIを退けるという英断も迫られます。

 

現在、リモートワークが広まっていますが、オフィスにいると他人が失敗して上司に怒られるシーンを見たり、怒られても飄々としている先輩を見たりして、失敗に対する耐性が身に付きます。だけど、リモートでは失敗は見えません。誰もわざわざ失敗したことなんか教えてくれないから。失敗に対する対処が分からなくなり、失敗に対するショックが大きくなる。私はそれを心配しています。

 

──軽々しく「結論は付いている」と言ってしまいましたが、AIの未来を考えるともっと考えないといけないんですね。

 

黒川伊保子 もっとあるんですよ。人間には、とっさの身体の動かし方が4種類あります。驚いたとき、「のけぞる人」「肩をすくめる人」「身構える人」「跳びあがる人」がいます。このことを知っていないと、危険な場所で人間を守るパワースーツを作る際に、とても危険なことになります。跳びあがる人に、のけぞる対応をしたら、ひっくり返りますから。

人類の対話は2種類、身体制御は4種類。これを私は「感性」だと思っています。なのに多くの方は、感性とは複雑で神秘的だと思っている。「女ごころなんて、意外に簡単です」と言えば、「女性を侮辱している」と言われたりする。人はなぜか、脳の類型を認めません。

でもね、脳には類型があって、誰もが、自らの生存可能性が高くなる「最良」の手段を選んでいる、と考えれば、人生がうんと楽になります。いきなり結論を突きつけてくる夫は、冷たいのではなく、「誠実に問題解決しようとしている」のだとわかるから。

 

この考え方をすると、欠点というものがなくなります。

怒りっぽい人は、怒ったときに一番、正解に辿り着く脳の持ち主なのでしょう。そういう人に「怒るな」と言えば、パフォーマンスは落ちてしまいます。「パフォーマンスが上がるなら怒っていい」と判断してもらった方がみんなにとってラクです。落ち込む人も同じです。

だってほら、敵に攻め入られたときに、「怒って戦う人」と「新天地を求めて旅立つ人」と「がっかりして、そこにへたり込む人」と3種類いたほうが、誰かが生き残れるでしょう?全員が一種類だと、滅亡しちゃうかもしれないじゃないですか。

心理学では、「怒り」や「メンタルダウン」はネガティブなものとして、コントロールしようとします。私の脳機能論では、脳のあらゆる選択を祝福します。

 

──「個性を認める」と言葉で言うけれど、どんな個性があるのかの類型を、誰も言語化してこなかったので、とても説得力があります。

 

黒川伊保子 AIの究極のミッションは、人間の暗黙知すなわち感性を補佐することです。するとAIに人間の感性を理解してもらうしかありません。「千差万別で神秘的」では、AIも困ります。感性をわかりやすくモデル化すること。それが私の30年来の研究テーマであり、未来につなげなければいけないライフワークだと思っています。

 

──AIをチューニングする必要があると?

黒川伊保子インタビュー黒川伊保子 そうです。企業が個別のAIを持つように、個人も自分に寄り添ってくれるAIになるようなチューニングが必要になります。

そのカスタマイズの専門家が、AIクリエイターですね。その人材が今後、大量に必要になってきます。

 

──その人材はどう育成すれば良いのですか?

 

黒川伊保子 人間らしく生きるってことでしょうね。それが人類の最後の仕事になります。

AIは一流シェフ並みの料理も作れれば、一流芸術家並みの作品も作れます。でも、AIには美味しいとか、美しいと感じる術はありません。単に、入力に対して出力しただけ。結果が、是か非かを判断するのは永遠に人間です。AIはフィードバックがあって初めて機能します。

すると人間のミッションは、味わうこと、感じること、喜ぶこと、あるいは心を痛めることに集約されます。美味しい料理を知っている人が育てたAIは、美味しい料理を作ることができます。例えば、魯山人と一緒に生きたAIと一緒に暮らせば、食道楽な暮らしができる。私だって、由美かおるさんと暮らしたAIに従えば、細いウェストがキープできるかもしれません(笑)。

ということは、人間は美味しいものを美味しいと感じ、美しいものを美しいと感じる力が大切になります。人間力ですよね。

その道のプロになるには、マニア力を身に付けなければなりません。

 

──逆にすごく難しく感じます。

 

黒川伊保子 私は、若い方に、よくこうアドバイスします。「好きで好きでたまらない、いつも、そのことを考えてしまう」ものに出逢ってください、って。「そして、何かにマニアックに夢中になれる脳神経回路を作っておいてね」と。別に、人に褒めることでなくても良いんです。「コンビニのプリン」マニアとかで十分。その代わり、コンビニプリンをすべて網羅し、新商品はいち早くキャッチアップするくらいの気概で。

いったんマニア回路ができると、他のことにも転用できます。未来、そのマニア回路が、必ず、あなたの身を救うからと。マニア体験は、ぜひ28歳までにやって欲しいと思います。28歳までが、脳の入力期だから。

 

──なるほど。

 

黒川伊保子 二千年以上も前から、計算すること、すなわち記号を操ることは、人類にのみ許された英知であり、人類の誇りでした。他の動物にはできないことだから。でも、その誇りを、AIが覆してしまった。AIは、勝手に計算します。しかも、その出力は、人類をはるかに凌駕しているのですから。

だから、客観性科学だけを信じる20世紀型エリートは、AIを恐れるのだと思います。AI研究者の私が、人類の感性をいとも簡単に類型化してしまったことに、嫌悪感を示すのも、理解できます。

 

しかし、人類の本当にすごさは、いのちがもたらす感性を記号化できるところにあります。感じたことを記号化すること(出力すること)。これこそが人類に残された誇りであり、AIにけっして奪われない場所です。

なのに、それを人はないがしろにしてきました。記号処理だけを「知性」と呼んできたんです。私は、それは違うと思います。本来の「知性」に戻るべきなんです。

 

──とても興味深いです。

 

黒川伊保子 AIと人間の付き合い方や、AIをどう育てるのか、AI教育の人材はどう育てるのか?また、リモートコミュニケーションが加速的に増えて行く中、社内のコミュニケーションをどうすれば良いのか?など、企業には課題はたくさんあります。

ぜひ、皆さんにも感性コミュニケーションの手法を学んで頂きたいと思います。

 

──とても貴重なお話しありがとうございました。

 

黒川伊保子インタビュー

 

 

 

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