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伊藤華英 講演会講師インタビュー

'08年北京オリンピックは背泳ぎ、'12年ロンドンオリンピックは自由形の日本代表選手として、日本の水泳界を牽引してきた伊藤華英さん。'12年に現役を引退した後は、大学院に進み、早稲田大学で修士課程、順天堂大学で博士課程を修了し、現在はアスリートと女性と子どもを中心に支援するさまざまな活動を続けている。話し上手でパワフル、明るい人柄の伊藤華英さん、講演会では自身の経験を豊富な知識と多角的なアプローチで語ることができ、体を動かす時間を作るなど独自の創意工夫も織り交ぜ、楽しい時間を過ごすことができる。講師派遣Speakers.jpでも多くの講演会を実施している伊藤華英さんの半生とこれから講演で伝えていきたいことについて聞いた。

(text:高田晶子、photo:遠藤貴也)

2回のオリンピック出場  水泳選手としての華麗なる経歴

――伊藤さんは生後6カ月でベビースイミングを始めたそうですね。いつ頃から水泳で頭角を現し始め、オリンピックを意識するのでしょうか。

 

伊藤華英 オリンピアンになれるような選手たちは小学校5~6年生で結果を出し始めるものですが、私は中学受験をしたので、その時期は水泳を辞めていました。中学生になってから、部活の一貫で水泳を再開したので、実は「絶対にオリンピックに行きたい!」という強い思いはなかったのです。かなりレアケースではあるのですが、そこまで必死に練習せずに中学2年生でリレー種目、中学3年生の時は個人で全国大会に出場できて、「私はどうやら水泳が得意なのでは……」とそのときに気が付きました。高校1年生で’00年のシドニーオリンピックの選考も兼ねた全日本選手権に出場して決勝まで残り、指導を受けていた鈴木大地さんからセントラルスポーツの寮に入るよう勧められ、そこからオリンピックを目指すようになりました。

 

 ――高校1年生から寮生活がスタートして、結果を残し始めるのですね。

 

伊藤華英 当時、寮では私が最年少で、高校へも寮から通っていました。高校時代は自分でお弁当を作って、高校から寮に戻ったら毎日プールへ行く水泳漬けの生活。2時間×2回の練習と陸上トレーニングを1時間、その後にストレッチ。プールにいる時間は4~5時間です。毎日辛くて泣いていましたが、そんな生活のおかげもあって、高校2年生と3年生はインターハイで2冠。高校2年生で日本代表になり、’01年の世界選手権に出場しました。

 

――’03年に日本大学に進学、’07年にセントラルスポーツに入社。’08年、23歳の時に北京オリンピックに出場されています。初のオリンピックはいかがでしたか。

 

伊藤華英 レーザー・レーサーの着用問題で話題になり、選手も翻弄された大会でした。大きな大会すぎて、実は記憶が曖昧で……。北京の景色もコースに立つまでの導線もほぼ覚えていません。「冷静に、冷静に……」と自分に言い聞かせていたのですが、緊張のあまり動揺して集中できませんでしたね。自分がオリンピックに出場しているのかも理解できていないくらいフワフワした感覚でした。
そんな状況だったので結果は振るわず、背泳ぎ100mが8位、200mが12位で終わりました。

 

――’12年のロンドンオリンピックにも出場されています。

 

伊藤華英 北京オリンピック後に膝の脱臼と胸椎ヘルニアを患い、自由形に転向しました。背泳ぎはテクニカルな要素が大きい特異種目ですが、自由形は少し調子が悪くとも「頑張ればなんとかなる!」と思えた種目で、水泳の幅が広がった感覚がありました。練習自体も変わりますが、私は背泳ぎより自由形のほうが好きでした。
ロンドンオリンピックは200m自由形で出場しましたが、決勝出場を逃してしまいました。

 

――水泳選手として現役時代に伊藤さんはオリンピックや多くの世界大会に出場してこられましたが、結果を残さなければならないプレッシャーや緊張などは計り知れないと思います。そうした試合の際はどのような感覚、状態なのでしょうか。

 

伊藤華英 「自分のレースをする」という選手のコメントをよく聞くと思うのですが、私も試合直前は自分のレースの展開を考えていますね。要は作戦です。
試合前は自分をフラットな状態にしたいので、感情の浮き沈みがないように、クラシックなどの音楽を聴いて集中するようにしていました。新聞を読むことをゲン担ぎにしていた時期もあったのですが、海外に行くと日本の新聞が読めなくなるのでやめました。試合前に必ず食べるものなども決めません。環境によって変化するようなことはやらないようにしていました。

 

――競技人生を通じて学んだことを教えてください。


伊藤華英 先日、学習院大学のスポーツをしている学生たちに講演をしたのですが、「就活をするときのスポーツの強味は何ですか?」という質問をされて、「『根性があります』という答え方はしないほうがいい」という話をしました(笑)。確かにスポーツを通じて根性はつくと思うのですが、漠然としすぎていますよね。「目標設定をしてやり抜く力がついた」のほうがベターです。
アスリートは「この結果を出すために逆算して、今これをやっておく」「いつまでにこのことをできるようにする」などとゴールセットをすることが身に沁みついている人がほとんどです。しかし、それがネガティブに働くこともあります。人生はゴールセットをしないことも必要な時はある。ゴールばかりが大切なことではありません。
報われたり報われなかったりすることも学びました。頑張って報われた時はいいのですが、結果が伴わない時もある。ベストを尽くしたとしても、いろいろなことが結果的に起こるということを知りましたね。
それから、自分の能力を客観的に見ることができるようになったと思います。できること、できないことを精査できることは水泳を通じて得られたことです。水泳によって人間的には成長ができたと思います。まだ成長過程ですけれど。

 

現役引退後、5年間大学院で研究 女性の生理についてのプロジェクトも立ち上げる

――ロンドンオリンピック後のぎふ清流国体を最後に、27歳で現役生活に幕を下ろされました。アスリートの宿命ですが、いったん人生に区切りをつけなくてはならないのは辛いですね。

 

伊藤華英 すでに’08年の北京オリンピック後にリアリティをもって引退を考え始め、最終的には’12年のロンドンオリンピックを機に引退をしようと思いながら競技人生を送っていました。明確なセカンドキャリアは描いていませんでしたが、ぼんやりと「早く辞めたいな」「何をしたらいいのかな」と思っていました。
怪我をした時に体づくりの一環でピラティスに通っていたので、まずは引退してからすぐピラティスの指導員の資格を取ることにしました。大学院に通っていた時にもスタジオでコマを持って教えていましたし、今も個人のお客様に教えています。講演会でお話しすることもあります。

 

――大学院に進学した経緯を教えてください。

 

伊藤華英 引退前からいろいろなコーチから「研究に向いていると思う」と言われていたうえに、早稲田大学の教授とのご縁があり、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ研究科スポーツマネジメント専攻にチャレンジすることにしました。私は水泳選手としての経験はあるけれど、スポーツをする際のストレスマネジメントやメンタルコントロールについては知らないことだらけでした。幅を広げて理論ベースで知識を得る必要があると思い、大学院に行くことを決めました。自分の経験だけだとたまに誰かにアドバイスができたりしても、自分のケーススタディしか伝えることができません。「私の場合はこうでしたが、一般的にはこうですよ」という話ができたほうが人の役に立つことができます。
それまで学術論文など書いたことはありませんでしたが、総合型地域スポーツクラブや地域のスタジアムなどスポーツ政策に食い込んでいくような研究をされていた指導教授で、スポーツの仕組み作りの研究ゼミに入ったので、とても勉強になりました。そのゼミに出席しながら、さらに自分がもともと興味のあったスポーツ心理学を研究することになり、「パフォーマンス向上におけるメンタルタフネスの尺度」を作りました。’13~’14年に早稲田で修士号を取り、’14年~’17年は順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科精神保健学専攻で博士号を取りました。

 

――伊藤さんは月経教育にも力を入れています。小学校や中学校、高校などで男女一緒に生理のお話を聞いてもらう活動や講演会をされていると聞きました。どうして月経教育をしていこうと思ったのか、その経緯をお教えください。

 

伊藤華英 ’17年にスポーツ雑誌「Number」のウェブマガジンでライターをさせていただいていたのですが、編集者に「’16年のリオデジャネイロオリンピックの際、中国の選手が生理で不調だったとインタビューで答えていたけれど、実際にはどうなのか」と聞かれて、自分の経験を書きました。多くの女性アスリートは生理だからといって、練習やトレーニングを休むことはほぼありません。厳しい練習によって、無月経になる人もいます。私は国際大会の前に生理の時期をずらすために中用量ピルを処方してもらうことがありましたが、体重が4~5キロ増え、お腹が常に張るなど副作用がありました。身体感覚が変わり、パフォーマンスが下がり、精神的にも影響が出てしまいました。それはピル自体が悪いわけではなく、ピルの副作用やその期間についての知識がなかったことが悪かったのだと思います。
そうした記事を書いたところ、Yahoo!ニュースのトップにアップされて、一躍「生理の人」のようにクローズアップされたのです。いわゆるバズった状態でした。今は生理についてタブー視することはそこまでなくなってきましたが、当時は生理の話題自体がそこまでありませんでした。今も女性のみならず、男性は特に生理やピルについて全く知らない人が多い状況です。日本のスポーツ現場における男性指導者は7割以上なので、男性も知るべきことです。個人でインタビューを受ける機会も増えたのですが、自分の発信だけでは問題解決の糸口にはならないし、根本的な問題を変えられないと思い、「1252プロジェクト」を立ち上げることになったのです。

 

――プロジェクト名の由来は?

 

伊藤華英 1年間52週あるうち、約12週は月経とそれに伴う体調不良が訪れることを意味しています。生理を通した女性アスリート支援も引き続き力を入れていきたいと思っていますが、10代からの性教育は大切なこと。自分の体を守れるのは自分だけだからこそ、知識を持つことの大切さやリテラシーを高めることが重要だということを女子学生たちには伝えるようにしています。生理=女性の問題だと思われるかもしれませんが、男女ともに性差別や互いの体の違いを学ぶ機会が少なすぎるのが現状です。なかなか学校では教えてもらえない話をしたり、質問できたりする場が作れたらいいなと思い、全国の小学校、中学校、高校を回っています。結局は婦人科に行ってほしいのですが、婦人科のハードルが高いですよね。定期的な検査がなぜ必要なのかをきちんと知ってほしいですね。

 

心と体は繋がっている 講演会では体を動かすことも!

――伊藤さんの講演会ではどのような話をするのでしょうか?

 

伊藤華英 ストレスマネジメントやメンタルヘルス、ウェルビーイングの話が中心になります。ウェルビーイングという言葉は日本語で「幸福度」と訳されるのですが、「自分が自分らしくいられること」を示しています。先ほどもお話したように、私は10代の子どもたちに生理の話をする機会が多いのですが、子どもたちが大人になることをイメージしながら教育はするべきだと思っています。私たちが生きてきた社会とは違う社会を子どもたちは生きていかないといけない。これからはより個性が光る時代だとも思いますので、未来を生きる人たちが、自分が自分らしくいられるウェルビーイングの考え方が今後大切だと思います。
ストレスマネジメントやメンタルヘルスに関しては、自分の経験を心理的な側面から話して、メンタルトレーニングの紹介をしたり例を挙げたりしながら「こういう場合はこうしよう」という話をします。自分の思考の癖に気が付くことはとても大切なことです。例えば、「あの人は自分のことを悪く言っているのではないか」と不安になったり疑念を抱いたりすることがある場合、それは推測であって、実際にはわからないことですよね。そこにストレスを抱えても仕方がない。それは人のせいではなく、自分の思考の癖です。認知行動療法というのですが、自分の思考の癖や感情を把握することが大切だという説明をします。

 

 

 

 

 

――どのような方に講演することが多いのでしょうか?

 

伊藤華英 全員女性の時もありますし、ビジネスマンだけ、経営者だけ、学生だけの時もあります。「自分がどんな行動をするとチームがよくなるか」という話をする時もありますし、時と場合と相手によって、話す内容も少しずつ変えています。いろいろ話した結果、「とにかく運動しろ」という話に落とし込むのですが……(笑)。
講演会のテーマとしてもあるのですが、特に、ピラティスはオススメです。ピラティスは理論的で解剖学に基づいている呼吸法。ピラティスで体の軸を整えることによって、心の軸も整います。心だけをどうにかしようとしないで、体も使って整えましょうという話をします。心と体は繋がっているのです。
気持ちの整理や切り替えなどには運動が一番有効です。時間がなければ10分でもいいので、体を動かす。私はアスリートだったので、体を動かすことを教えるのが一番得意です。運動の仕方も教えます。講演会の途中で簡単なピラティスを取り入れることもよくありますよ。その後、集中して聞いてくれるのでとてもいい効果があると実感しています。

 

――それでは、最後に今後の目標を教えてください。

 

今は主に女性のヘルスケアを推進していますが、最終的には男女の区別なく、個を大事にできる社会になっていってほしいと思っています。そのためには、まず女性の健康問題など自分ができることに取り組み、女性が自分の選択で自分らしく生きていける社会に貢献できたらと思います。社会貢献と言うとありきたりかもしれませんが、社会にとって何にニーズがあるのかを考えながら今後も活動していきたいですね。

 

 

――貴重なお話をどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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