政権交代がいつ起きて、世の中がどう変わるかを予測する
政治記者43年で政権交代を4回見た
政治記者にとって最大のニュースは「政権交代」です。政権交代とは与党と野党が入れ替わることを言いますが、43年間記者をやっている私も政権交代は今まで4回しか見たことはありません。
最初は1993年の細川護煕政権誕生、そして村山富市政権(1994年)、鳩山由紀夫政権(2009年)、安倍晋三政権(2012年)です。
政権交代で何が起こるのか。
欧米では保守とリベラルの2大政党が大体5年とか10年くらいの周期で政権交代します。欧州では最近は小政党が乱立し、2大政党制ではなく2大勢力制になってはいますが。
以前英国の知人が「政権交代すると税金が変わるんだ。保守党になると下がり、労働党になると上がる。その分、バス料金や公立学校の授業料などが変わる」と言っていました。英国では労働党=大きな政府、保守党=小さな政府であり、政権交代があると生活が変わることを国民は知っています。
また米国の記者は湾岸戦争の時に「民主党政権だと艦砲射撃だけだが共和党は地上戦まで行く。
今は共和党のブッシュ(父)政権なので地上戦になるよ」と言っていました。
米国はまだ「世界の警察官」ですが、軍事介入の仕方で共和と民主でこのように違いがあります。
つまり欧米では政権交代により経済や安保で明らかに政策が変わり、国民もそれを理解した上で投票をしています。
日本でも2009年に民主党が政権を取った時には、「ダムを作るのをやめる」「子ども手当を出す」「米軍の基地を見直す」などのリベラルな政策が提起されましたが、結果的には政権の期間が短く残念ながらほとんどが達成されませんでした。
2012年に政権を取り返した自民党の安倍晋三首相は金融緩和に舵を切って円高を是正し、その後、財政出動で日本経済の再生を目指しました。また安保では集団的自衛権を容認して米軍との連携を強化しました。
リベラル勢力は頑張ってきたのか?
安倍政権の評価は分かれますが、その前の民主党政権に比べると「政権交代によって世の中が大きく変わった」ことは間違いないと思います。
ただ日本では欧米と違って政権交代による急激な変化を国民があまり歓迎しないという側面はあるような気がします。
だからむしろ逆と思われるようなことも行われます。例えば安倍政権は消費税を2度上げました。5%から8%に、さらに10%に。安倍さんのような保守政治家が増税をするというのは欧米ではあり得ません。ただ日本のあまりにも「充実した」社会保障を維持するには消費増税はやむを得ないと安倍氏は判断したのです。
本来はその前の民主党政権でやるべきだったのですが、やるだけの政治的な力がありませんでしたし、そもそも民主党は選挙公約に消費増税を入れていませんでした。
欧米を見るとリベラル政党の「頑張り」が目につきます。例えば保守系の英国のサッチャー元首相、ドイツのメルケル前首相の評価は高いのですが、実は英国のブレア、ドイツのシュレーダーというリベラル系の首相が労組改革をしたことが独英のその後の経済繁栄に大きく貢献したのです。
米国でも最近の大統領の中ではリベラル系のクリントンが一番マシだったのではないかと私は思っています。
それに比べて日本のリベラル政党はパッとしません。そもそもこの半世紀で政権を取ったのはたったの2回、合計4年くらいなのでしょうがないのですが、それにしても日本のリベラル政党すなわち社会党、民主党、社民党、立憲民主党、国民民主党がどんな成果を出したのか、と問われると思いつくものがありません。
政権交代は私たち有権者が「今の政治ではダメだから新しい政治で刷新してほしい」と思った時に起こります。当然多くのことが変わらなければなりません。
政治記者の仕事はこの政権交代がいつ起こり、その場合どのような政治の変化が起こるのかということを予想することなのかなと思っています。
ただ政権交代はそう頻繁に起こるものではありません。私の人生でもまだ4回しか起きてないのですから。ただ「プチ政権交代」や「擬似政権交代」は日本ではよくあります。日本らしいと言えば日本らしいのですが。
経済も安保も政権交代で変わる
例えばこの原稿を書いている現在(2024年8月)で考えると、岸田文雄首相が再選を断念したためまもなく総裁選が行われ新しい総裁(首相)が誕生するわけですが、これは「擬似政権交代」です。
首相(総裁)が同じ党の中で交代するだけなので経済や安保で大きな変化はあるはずもありませんが、自民党として政治資金の裏金問題で苦しんできたのでここは「刷新感」を出して、まるで政権交代が起きたかのように国民に錯覚させようとしています。
またその後に自公政権が総選挙で過半数を割って少数与党になってしまうと、日本維新の会や国民民主党が連立入りするなり閣外協力をすることになるので、それは「プチ政権交代」です。
プチであろうが擬似であろうが、あるいは「純正」であろうが我々は常に政権交代というものに接するチャンスがあるわけです。政権交代はいつあるのか、ないのか。もしあったら政策はどう変わるのか。税金は上がるのか下がるのか。株は?ミサイルを撃つのか撃たないのか。
それを予想するのが我々政治記者の仕事です。
私の講演ではそうしたことをお話ししたいと思っています。
1982年、立命館大学経済学部卒業後、フジテレビジョン入社。社会部、外信部記者、ワシントン特派員、首相官邸キャップ、報道センター編集長、政治部長、報道局専任局長、解説副委員長を経て現職。日本記者クラブ企画委員も務めている。
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